平成23年7月5日
学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議

        子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ   
       〜地域とともにある学校づくりの推進方策〜
                                   (抜粋)


子どもを中心に据えた学校と地域の連携


○学校(特に義務教育段階)は、子どもが自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を培う場であり、子どもにとって学校は、生活の一部と言える場所である。
 地域から見れば、学校は地域社会の将来を担う人材を育てる中核的な場所ということであり、学校は地域社会の中で重要な役割を担っている。
○子どもの「生きる力」は、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中でよりはぐくまれるものであり、学校のみではぐくめるものではない。
 社会の変化に伴い、多様化・複雑化するニーズに学校の教職員や行政の力だけで対応していくことは困難となっており、学校が地域社会においてその役割を果たしていくためには、地域の人々(保護者・地域住民等)の支えが必要となっている。
○学校の裁量拡大が進められてきた教育改革の流れの中では、公費で運営される公立学校をモニタリングする主体として、保護者・地域住民等の学校関係者が学校運営に関わっていくことも重要となっている。
○子どもを育てる中では、保護者は家庭教育の責任者として、地域住民は地域教育の担い手として、それぞれの責任があり、子どもたちをどのように育てていくのかについて、学校に求めるだけではなく、当事者として自分達の持ち場で積極的に関わっていくという意欲が求められる。
○学校と地域の関係は、子どもを中心に据えて、家庭とあわせて三位一体の体制を構築し、子どもの成長とともに、教職員や保護者、地域住民等がともに学びあいながら人間的な成長を遂げていくという姿が理想である。
○子どもたちの豊かな育ちを確保するために、すべての学校が、地域の人々と目標(「子ども像」)を共有した上で、地域と一体となって子どもたちをはぐくむ「地域とともにある学校」となることを目指すべきである。
 小学生から中学生になることで学校生活に戸惑いが生じないように、義務教育段階を一体的に捉え、今以上に小学校と中学校の連携を密にすることも必要である。



地域とともにある学校づくりの促進


○学校と地域の連携は、新しいテーマではない。今では、地域の実情にあわせ、学校運営協議会制度や学校支援地域本部事業などを活用し、学校と地域が連携した取組が盛んに行われている。
○一方、システムの導入を先行させたために活動が形骸化している例や、人材面、財政面から活動の継続性・安定性に対する懸念などが指摘されている。学校と地域の連携の実質化を一層図っていく必要がある。
○子どもの育ちは各学校単位で収まるものではない。学校を単位として行われてきたこれまでの取組を発展させ、学校間の連携、学校段階間の接続や連続性の確保に留意して、地域との連携や学校運営を捉えていく必要がある。
○学校と地域の関係を捉えていく上では、これまでの教育改革の文脈では十分に位置づけられてこなかった、「子どもの学びの場」にとどまらない学校の側面に焦点を当てていくことも必要である。

新たな視点

@「大人の学びの場」となる学校
 地域の人々が集い、活動していく学校では、教職員、保護者、地域住民等が、多様な人々と関わることで、たくさんの人との合意形成の仕方、互いを尊重して共に活動するやり方、信頼関係の結び方などを学ぶ機会が生まれる。
 学校は、地域の大人が学び合い、共に成長できる場となりうる。

A「地域づくりの核」となる学校
 学校は、日本全国、生活拠点に一定の間隔で存在し、多様な活動に対応できる施設・設備があり、常に人が集う場所である。学校は、いわば地域の人々を惹きつけやすい性質を備えている。
 学校は、地域コミュニティが結びつきを深める場(地域コミュニティの核)となり、「地域づくりの核」ともなりうる。

目指すべき学校運営の在り方

○学校と地域の人々との間での目標の共有
 学校と地域の人々が一体となって地域の子どもたちを育てていくためには、学校と地域の人々が、子どもたちの実態について認識を共有した上で、地域でどのような子どもを育てるのか、何を実現していくのかという目標(「子ども像」)を共有することが必要である。
○地域の人々の学校運営への参画
 共有した目標に向かって、ともに活動する場が必要である。子どもを中心に据えた学校と地域の人々の「協働」の中核となる場として、学校運営への地域の人々の積極的な参画が求められる。
○学校運営に備えるべき機能
 学校と地域の人々が相互の理解を深め、信頼関係を構築していくことが必要となる。
 このため、これからの学校運営には、以下の機能を備えることが必要である。
@関係者が当事者意識を持って「熟議(熟慮と議論)」を重ねること


A学校と地域の人々が「協働」して活動すること


(参加的な取組の例)
 ・授業参観、学校行事の公開への参加
 ・学習支援や登下校の見守りなどの学校ボランティア
 ・キャリア教育等の教育課題におけるゲスト・ティーチャー
(学校を支援する取組の例)
 ・授業支援や部活動支援
 ・学校行事の企画や実施への支援 等
(積極的な情報公開の例)
 ・授業参観、学校だよりの発行、地域広報紙の活用、学校ホームページの開設等のICT 活用 等


B学校が組織として力を発揮するための「マネジメント」

地域とともにある学校づくりにより得られる成果

○ 子どもを中心に据えた学校と地域の連携は、子どもの育ちにとどまらない、大人たちの学びの拠点を創造し、地域の絆を強め、地域づくりの担い手を育てていく。
<得られる成果>
@子どもたちの「生きる力」をはぐくむことができる(地域の望む子ども像の実現)
・多様な人々との交わりの中で、子どもの社会性の育ちなどが生まれる。
・キャリア教育や環境教育など教科横断的な学習課題に対し、多様な視点が取り入れられることにより、より豊かな学びが得られる。
・地域の大人からほめられることにより、やる気の向上や重圧からの開放など、心の安寧につながる。
・地域の人々に支えられて学んでいくことで、地域への愛着が芽生える。
A教職員、保護者、地域住民等がともに成長していく(地域の教育力向上)
・コミュニティ・スクールも学校支援地域本部も、教育や子どもの成長に責任を持つ人たちが増えるプロセスとなる。
・様々な関係者との関わりを通じて、教職員、保護者、地域住民等もともに学びあいながら人間的な成長を遂げていく。
・大人たちの成長は、学校、家庭、地域における子どもたちの教育の充実につながる。
B学校を核として地域ネットワークが形成される(地域の活力向上)
・地域の人々が結びつき、子どもたちに目が向けられることで、子どもたちにとって安全で安心できる生活環境が生まれる。
・学校への関わりを通じて、地域の人々同士がつながり、保護者も地域住民の一員として地域の活動に関わることで、子どもが学校を卒業した後も保護者が地域に関わっていく流れができれば、地域の活力もあがっていく。
・こうした関係が、「地域づくりの核」となる学校へとつながっていく。
C地域コミュニティの基礎力が高まる(地域の礎の構築)
・地域の大人たちが、学びあいを創造していくプロセスを経て、当事者意識をもった市民として、地域づくりの担い手となっていく。
・地域全体としての「生きる力」の高まりや平素からの学校と地域の人々の強いつながりは、震災などの有事の際に「コミュニティの力」として顕著にあらわれる。
○ また、こうした成果は、そこに関わる当事者にとって、それぞれの立場から地域とともにある学校づくりに関わっていくことの魅力へとつながる。


<子ども・保護者にとっての魅力>
 ・学校に多様な人々が関わっていくことで、学校での学びがより豊かに、広がりをもったものとなり、子どもの学びが充実する。
 ・学校への関わりを通して学校や地域への理解が深まることで、子どもが地域の中で育てられているとの安心感が生まれる。
<教職員にとっての魅力>
 ・相互理解に努め、信頼関係を構築していくことで、地域の人々は、学校の応援団となってくれる。
 ・地域の人々との交わりで得られる多様な経験が、教師としてもっと豊かな指導力の発揮につながる。
<地域に暮らす人々にとっての魅力>
 ・地域の人々が集う場所が生まれることで、学校が、社会的なつながりが得られる場として、地域のよりどころとなる。
 ・地域のネットワークが形成されることで、地域づくりの輪が広がっていく。
 ・学校を中心につながった絆は、地域の力を高め、地域住民に安心と生き甲斐を与える。


学校の可能性(「地域づくりの核」となる学校)


○東日本大震災において、学校は避難所として、避難生活を支える地域の拠点となった。 子どもたちの存在が、周りの大人たちの生きていく心の支えとなっている。過去の震災時においても同様の光景がみられたところである。
○日本の公立学校は、全国どこの地域にもあり、優秀な教職員が配置されており、震災時の避難所としての機能にとどまらず、全国で地域社会を支えるインフラとなっている、世界でも画期的なシステムと言える。
 地域に根を張り、地域の礎となっている学校は、地域の教育力向上や学校を核とした地域ネットワークの形成といった形で、地域づくりに貢献することが可能である。
○地域によっては、学校の有する物的・人的資源やネットワークを活用して地域づくりに取り組んでおり、学校が地域づくりの核として機能している例が見られる。
 こうした地域では、学校を核として地域の人々のつながりが強まって、地域の活力が高まり(地域がよくなる)、地域がよくなれば学校もよくなる(学校への支援が強力になる)という好循環が生まれている。
○学校における学習課題(例:人権教育、防災教育、環境教育等)は、地域の課題につながるものでもあり、学校づくりと地域づくりが密接に関わっていることを考えれば、今後、学校が、地域の課題を解決するための「協働の場」になる(地域の課題を学校の場所や施設等を使って解決する)という視点が必要となってくる。


(施設の活用の例)
 ・地域交流室といった地域住民の交流の場や地域づくりの拠点としての場の提供
 ・生涯学習・子どもの居場所づくり(放課後子ども教室)・総合型地域スポーツクラブ・参加型保育のための場の提供 など
(機能の活用の例)
 ・学校が持つ「授業の魅力」や「学習の機会」、様々なネットワークを活用した新しいタイプの成人教育の場の提供 など

○学校を地域の課題を解決するための「協働の場」とする際には、単に施設を開放するだけにとどまらず、その使用法等について、学校と地域の人々との「協働」が必要である。また、地域の人々が主体となった運営を基本とするとともに、学校の体制(内部組織)整備を行い、学校への新たな負担が増すことがないように留意することが必要である。
○地域の人々が日常的に学校に関わる状態をつくることで、子どもたちが地域の人々に見守られて育つ環境が生まれるとともに、地域を良くしようとする人たちの営みが学校にも向けられ、学校を良くしようという営みと結びついていく。
○地域交流室やコミュニティハウスといった、地域住民やNPOが運営できる公設民営的な空間を学校に設けていくことが効果的である。学校を地域活動の「場」とすることで、情報と人が学校に集まり、そこから学校への参画も広がる。
○こうした取組が機能していくためには、ルール作りをはじめとした教育委員会の環境整備・サポートが必要である。国は、このような取組がさらに広がっていくよう、財政的支援を含め、各種の支援を行っていくべきである。

○地域の礎としての学校の存在や役割を考えたとき、学校施設が備えるべき機能や学校施設の統廃合(学校の適正配置)については、教育的視点や地域づくりの視点に立った検討が求められる。



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